すのっぶにござりまする。

服飾を通して文化を学びたい男のひとりごと

ドレスウォッチの選び方

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 本日は「ドレスウォッチの選び方」で御座います。フォーマルの場合、立ち位置は微妙ですがビジネスや普段着に於いては不可欠なドレスウォッチ。カジュアルな時計を合わせる場合もありますが、本日はドレスウォッチのお話です。それでは、宜しくお願い致します。

 

 

 そもそも時計はするのか

 

 フォーマルの場合、立ち位置は微妙と申し上げましたが、まずはビジネス・普段着でのお話から致します。

 ビジネスに於いては必須でしょう。スマートフォン等で時間が確認できるとはいえ、クライアントの前でスマートフォンを開いていたのでは失礼に当たります。腕時計であれば気づかれないようにチラリと時間を確認できます(相手に時間を確認したことを気づかれないことが大前提だが)。最近とてつもない進化を遂げているスマートウォッチも避けるのが無難。デジタルも避けた方が良いでしょう。

 「機能が少ない時計の方がドレス寄り」という前提があります。スポーツウォッチ以上に機能が満載のスマートウォッチはフォーマルは無論、ビジネスにも相応しくないでしょう(ビジネスはタウンスーツとカントリースーツの中間)。

 普段着に於いては皆様の感覚で構わないと思います。ただ、考えて頂きたいのは「クラシックなノーフォークジャケットにウールのトラウザーズ、ウィングチップの茶靴...といったスタイルにスマートウォッチが似合うか」ということです。この一言で十分でしょう。重ねて申し上げますが、普段着に於いては着用するか否かも含めて其々の感覚で構わないと思います。

 フォーマルに於いてのお話です。略礼装の場合は着用に関してはそこまでうるさく言われることはないと思います。準礼装の場合は場の空気を見定めて着用するかどうかを決め、正礼装の場合は着けないのが無難。といったところでしょう。フォーマルでは「着けないのが究極、着ける場合は機能をできるだけ排し、時間を気にしていませんという気持ちを表す」という気持ちを持つことが大切です。時計を付けるのに「時間を気にしない」とはどういうことだ?と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、突き詰めていけば理解できます。会長就任パーティーに招かれた時、知人の結婚を祝う時、故人を偲んで最期のお別れをする時...フォーマルシーンは場の格式に見合うだけの大切なことが行われていますね。そのような場で時間を気にして上の空では非常に失礼です。ですから時計を身に着けないのが究極と申し上げました。とはいうものの、ビジネスシーンと同じく周りに悟られないように時間を確認しなければならないこともあります。少しでも時計を着けない状態に近づけつつ、時間を確認したいと考えれば良いでしょう。先程「機能が少ない時計の方がドレス寄り」と申し上げたのはこのためです。フォーマルシーンの時計の細かいルールは後程御説明申し上げます。

 少々脱線を致しました。

  1. ビジネスでは着用必須
  2. 普段着では個人の自由
  3. フォーマルでは場を見定めて着用するかどうかを慎重に決める

 以上のようにまとめることができます。

 

 ビジネスシーンに於けるドレスウォッチ

 

 「社会人たるもの時計は着けなければ!」と意気込んだ新入社員がリクルートスーツにG-shock...「本日からお世話になります!中乃上と申します!」先輩や上司は大-shockでしょう。

 冗談はさておきビジネススーツはタウンとカントリーの中間(タウン寄り)です。フォーマル程ではないにしろ気を遣う必要があります。

 カレンダー機能は日付と曜日くらいに抑え、ベルトはメタルかレザー、派手な色の文字盤や針・極端に大きかったり、分厚いケースは避ける。このくらいのルールを頭に入れ、全体的なスタイルを見て選ぶのがベストかと。布・ナイロンベルトの時計を粋に合わせる方もいらっしゃいますが、難易度が多少上がりますので初心者は避けた方が良いでしょう。かのジェームズボンドは準礼装にナイロンベルトのダイバーズウォッチを合わせていますが、あくまでこれは例外。ジェームズボンドだからできることです。

 因みにメタルよりもレザーベルトの方がドレス寄りです。レザーベルトといえば以前の記事でお話ししました。そちらも合わせてお読み頂けると幸いです。

 ケースやベルト(メタルの場合)の色もシルバーかゴールドか、余程派手でもない限り、うるさく言われることは無いでしょう。個人的にはゴールドケースでベルトまでゴールドだと派手なので、ゴールドケースの場合はレザーベルトにしています。

※あくまで中乃上個人の意見・好みですので、其々の価値観で良いと思います。

kutsuyasan.hatenablog.com

 

 文字盤は白が最もフォーマルで、黒や青のものも多くあります。好みで選んでも差し支えないと思います。

 文字盤の数字はアラビア数字、ローマ数字、バーインデックス、これも好みで選んで良いでしょう。

 2針式でも3針式でも構いません。後述のフォーマルシーンでは別ですが、ビジネスに於いては秒針もあったほうが便利で良いかもしれません。

 駆動方式は趣味の域に近いと思いますので、どれでも構わないでしょう。

 個人的に新社会人におすすめの時計は、黒い文字盤(バーインデックス)にシルバーのメタルベルト・3針式で曜日と日にちのみのカレンダー機能付き・駆動方式は自動巻きの機械式。こんなところでしょうか。かくいう私中乃上の社会人一本目の時計もこの特徴でした。

 

 フォーマルシーンに於けるドレスウォッチ

 

 フォーマルシーンに於けるドレスウォッチはルールが厳格ですので、ある意味楽だと言えるでしょう。

 文字盤は白が最もフォーマルと先程も申し上げましたが、文字盤は白一択と考えて頂いて差し支えありません。

 文字盤の数字は、アラビア数字は避けましょう。ローマ数字やバーインデックス等、数字(時間)を強く意識させないものを選びます。これは「時間を気にしていませんよ」という気持ちを表すことに繋がります。同じ理由で2針式、秒針を省略したものを選びます。

 ベルトはレザーベルト(クロコレザーが最もフォーマル)。フォーマルシーンですので黒一択ですね。

 ケースはできるだけ薄く、小ぶりなものが望ましいです。ゴールドかシルバーかは、シルバーを基本として、ゴールドが許される場かどうかを見極めましょう。

 

 いつもの独り言というよりはHow to記事のようになりましたが、御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

プリーツ・タック考

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 前回に引き続きまして、私の独り言にお付き合いください。

 本日は「プリーツ・タック考」でございます。今までの記事と重複する部分はありますが、宜しくお願い致します。

 

kutsuyasan.hatenablog.com

 準礼装の源流を知る甲で触れておりますので、宜しければこちらも合わせてお読み頂けると幸いです。

 

 プリーツ・タック考

 

 プリーツ・タックの違い

 

 「プリーツ・タックの違いとは?」と聞かれ、返事に窮する方も多いと思われます。

人によっては「プリーツプリーツと粋がりやがって、タックでいいだろタックで」というかなり偏った狭い見方しかできない方もいらっしゃるようです(とあるプリーツの入ったトラウザーズを紹介する動画のコメント欄でお見掛けしました)。

 この2つは「生地をつまんで折り返し、縫い付けてひだを作ったもの」という意味では同じものです。折り返した際にできる折り目をひだに連続させて付けたものがプリーツ。折り目を付けないひだだけのものがタックです。折り目(トラウザーズで言うとセンタークリース)の有無で判断します。決して「かっこいいからプリーツ」と言うわけではありませんのでお気を付けください。

 

 プリーツ

 

 トラウザーズのプリーツについてです。プリーツは英国の名門大学であるオックスフォード大学で生まれました。大学でゴルフが大流行した際、ゴルフウェアの上からでも着用できるようにと非常に太いシルエットの「オックスフォードバッグス」が考え出され、これまた大流行。バギーパンツの原型でもありますが、プリーツのルーツもここにあります(詳細は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲」をお読み頂ければと思います)。

 こういった経緯から「フォーマルウェアにはプリーツは適さない」と結論付けました(フォーマルウェアに機能的なものは似合わないため)。

 しかし、ビジネスやカントリー、普段着としてのトラウザーズにはよく似合いますし、是非入れたいとさえ思います。クラシックな趣がありますし、ゆとりがあって履き心地も良いですね。前回の独り言でも紹介したAtelier BERUNの竹内さんも「スリーピーススーツのトラウザーズにはプリーツが必須」と仰っていました。

※これはフォーマルで以外のルールだと理解しています(中乃上個人の見解)。


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 もうひとつの例外としてアイビースタイルもプリーツ無し(プレーンフロント)が良く似合います。こちらのプレーンフロントはデニムやチノーズといったラギットなものをルーツに持つのでしょう。

 ワークウェアやカジュアルウェア由来のプレーンフロントか、オックスフォードバッグス以前のトラウザーズ由来のプレーンフロントかによって捉え方が大きく変わります(「同じプレーンフロントだろ」と言われればそこまでですが...)。

 因みに「ノープリーツ」とは申しません「プレーンフロント」で御座います。

 プレーン(標準)のものであるということから「フォーマルウェアにはプレーンフロント」論の補強になりますね。

 さて、このプリーツにもパターンがあります。「アウトプリーツ」「インプリーツ」このふたつを御存知でしょうか。現代に於いては九分九厘アウトプリーツです(既製服の場合は十割と言っても差し支えないでしょう)。アウトプリーツは米国風、インプリーツは英国風なんてことも申しますが、実際の違いとは何なのでしょう。

 アウトプリーツは生地をつまんだ「タック」部分のひだの向きが外側(トラウザーズのポケット側)で、指を入れると指と指が向き合います。インプリーツはその逆で、ひだが内側向きです。

 インプリーツはトラウザーズを履いた場合もタック部分が広がりにくく、すっきりして(プリーツの入ったトラウザーズのなかでは)フォーマル寄りな印象を与えます。英国発祥且つプリーツの源流ですので、クラシックな趣があり、スリーピーススーツやかちっとしたスタイルによく合いますね。

 アウトプリーツは手間のかかるインプリーツに比して工程が簡単ですので、大量生産の米国で生まれました。スポーティで軽快な印象を与え、ツーピーススーツやジャケパンスタイルによく合いますね。

 プリーツの入ったトラウザーズの良さを遺憾なく発揮できるのはブレイシスで吊るスタイルでしょう。センタークリースが綺麗に出て、トラウザーズを美しく履くことができます。ラギットなものにルーツを持つプレーンフロントはベルトがよく合いますね。

 しかし、ワークウェアに於いては映画「ショーシャンクの空に」にもあるようにブレイシス(米国的にサスペンダーと呼ぶのが良いか)も非常によく似合います。ミリタリーに於いてはやはりベルトでしょう。

 

 タック

 

 ここではシャツのタックについてです。背タックや袖タック、ダーツの入ったシャツもありますね。ダーツは生地をつまんで、その部分を完全に縫い込んだものです。

 体に極端にフィット(と言うよりピタピタ)するダーツ入りのシャツはドレスシャツに相応しくありません。赤峰先生も「間違ってもダーツの入ったシャツを選ぶな」と仰っていて、生意気ながら私も完全に同意見です。


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 フォーマルウェアに於いては背タックは相応しくなく、袖タックに於いては例外的に2タック入れた方が良いというのは準礼装の源流を知るシリーズ甲でお話しました。

 

「シャツの袖タック以外はプリーツ・タックは排するべきだと思います」と申し上げましたが、袖タックを入れるべき理由については、はっきり言って明確なロジックはありません。「男の服にはすべて意味がある」とよく申しますので、ロジックがないというより私の勉強不足ですが、長い間調べ、悩み続けていますが、納得のいく答えに辿り着けていません。現段階での私の考えとしては、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」というなんともぼんやりしたものです。袖タックの存在しないシャツなどあまり聞きませんし、仮にあったとしてもしわが寄ってしまったり不格好になってしまうのでは、と想像できます。そのため、一貫性に欠く部分はありますが、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」を理由に(あまり強い理由ではないが)「シャツの袖タックは2タックが良い”だろう”」という説を推してまいりたいと思います。

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲 - すのっぶにござりまする。

 

 これはフォーマルでの話ですので、ビジネスやカントリー、普段着としてのスーツやジャケパンに於いては、「動きやすさをとって背タックを入れる」「すっきりとさせたいから背タックは入れない」「袖2タックでは仰々しく感じるから1タックにしておく」等、それぞれの価値観で構わないと思います。

 

 「私の考えが正しいから覚えておきなさい」などと申し上げるつもりはありません。服というものはすべて源流を知り、自分なりに咀嚼して落とし込むことが最も重要です。自分が納得する答えを出し、実践することが服飾の醍醐味ではないでしょうか。

 

 まとまりのない本当にただの「独り言」でしたが、御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

革小物・金物の色は揃えるべきか

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 源流を知るシリーズの第1回がようやく完結致しまして、本日は私の独り言でございます。完全に赤峰先生の「ユキちゃんのひとりごと」の模倣オマージュです。内容はかなり劣りますが、御付き合い頂けると幸いです。

 

 本日は表題の通り、「革小物・金物の色は揃えるべきか」というお話です。

 この記事を作成するきっかけとなったのは以前に見たこの動画です。

 


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 Atelier BERUNの竹内さん。豊富な知識と経験を持つ、私中乃上が憧れる方の一人です。

 この動画のタイトルを見た当時の私は「革小物の色は合わせるのが常識だろう」と浅ましくもそう思っていましたが、動画を見て自分の思慮の浅さを恨みました。

 動画を御覧頂くのが一番良いですが、さわりだけお伝えします。

 「色を合わせるのは正解だが、そこまで厳密にする必要はない」とのこと。黒・ダークブラウン・ブラウン・ライトブラウン・ベージュ・白と色を段階で分けたときに、1段階の違いであれば合わせても問題ない。そういった視点の話を聞いたとき、自分の視野がいかに狭いかを痛感しました。フォーマル・タウン・ビジネスに於いては革小物の色は合わせるべきでしょう。しかし普段着としてのスーツやカントリースタイルの肩肘張らない愉しさを頭に入れていなかった私はなんて馬鹿なんだろうと思いました。

 詳しくは動画を御覧頂くとして、ここからは私の考えです。

 竹内さんは「自分も革小物の色を合わせるのが常識と思っていたが、欧州の人々が革小物の色を合わせずに服を着こなしている様が非常にかっこよく、革小物の色を合わせるルールに縛られなくていいと思った」と仰っていました。あくまで全体的なスタイルが美しければ細かいルールを気にしすぎる必要はないということです。赤峰先生が常々仰っている「木を見て森を見ず」という状況に陥るなということにもつながりますね。

 「色を段階で分けたときに1段階の違いであれば合わせても問題ない」というのは、全体的なスタイルを見たときに、違和感なく合わせるための指標であり、美しいスタイルを作り上げることができるなら、何を合わせても良いのです(少し極端な言い方だが)。2段階以上異なる色を合わせるのは難しいということは想像に難くありません。

 勿論色を合わせるのが最も無難で統一感も出ることは変わりありません。しかし竹内さんも動画内で仰っていましたが、シーンによって「一生懸命さ」が出てしまう可能性もあります。例えばグレーのトラウザーズを履き、サックスブルーのシャツのボタンを開け、袖をまくってホワイトバックスシューズを履く。こういった気の抜けた(粋な)スタイルでベルトも靴に合わせて白にしては「頑張りましたね(気の抜けたスタイルを演出するのに必死になっているな)」という目を向けられるやも知れません。ホワイトバックスは赤峰先生も「革のスニーカーのようなもの」と仰るように気軽なものですから、ルールも何もないですが、私はこの場合、ライトブラウンのベルトを合わせると思います。黒靴にライトブラウンのベルトは合いにくいでしょうし、黒靴であれば黒ベルトが無難でしょう。ただ、白という色は許容範囲が広めだと思います。白とベージュ、白とライトブラウン、白と(明るめであれば)ブラウンも合いやすいでしょう。

又、白と黒は両極にある色です。色が違いすぎるため、逆に合いやすいのではないかと思います。フォーマルに於いて、白いブレイシスに白い革が使われるとはいえ、靴は黒のままです(これは例外に近いものだろうが)。

 まとまりがなくなってきましたが、結論を申し上げますと、厳格なルールが求められる場であればしっかりと守る。普段着や、装いを愉しむ幅を持たせて良い場であれば知識や理論一辺倒にならず自分の感覚を大切にする姿勢を持つこと。守るべき所は守り、愉しむ所は思い切り愉しむ。このメリハリが大切なのだと思います。

 カフリンクスやネクタイピン等の金物は、色が違うと浮いてしまいがちですので、合わせるのが無難でしょう。フォーマルシーンでは例外なく合わせるべきです。余程の自信がある方なら挑戦しても良いかもしれません(中乃上は挑戦することはないであろうが)。

 ともかく、大切なのは自分の知識や理論を振り返り、凝り固まった考えや狭くなった視野を顧みること。又、厳格なルールを守り、品格や権威を示すフォーマルも、日頃の気を抜いたスタイルを愉しむカントリーもすべて含めて「装う」ということだと理解する大切さを知ることが、より深い学びに繋がるのではないでしょうか。

 

 まとまりのない本当にただの「独り言」でしたが、御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲

  初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 このブログ初めての企画であります「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」ですが、前中後編に収まらず甲乙丙...と十干編に入ります。できるだけコンパクトに...とは思っているのですが、私の未熟さ故、なかなかの長編になってしまいました。今回で完結いたしますので、もう少しだけ御付き合いのほど宜しくお願い致します。

 

 この記事は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」の第4回でございます。先に前中後編をお読み頂けると幸いです。

 

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 準礼装独特のディテール(小物類)

 

 カフリンクス、スタッドボタンについては後編でお話しましたので、そちらを御参照ください。

 

 ブレイシス

 

 「準礼装独特にベルトという発想はそもそも有り得ない」ということは後編にて申し上げましたが、ブレイシスなら何でも良いわけではありません。

 色は黒か白(無論無地)。白の方が燕尾服の流れを汲んでおり、フォーマル度は高いですが、そこまで気にする必要はないでしょう。金具の色はシルバーかゴールド(他の小物の金具の色と合わせる)で、カフリンクス宜しくよりフォーマルなのは光沢を抑えたシルバーです。

 ベルトを想定しない準礼装ですので、ボタン留めのものが望ましいでしょう。本来ボタンは外側に付けるのですが、これもそこまで気にする必要はないかと思います。

 

 ボウタイ

 

 黒い手結び式のものを着用します。プレ・タイド・ボウと呼ばれるボウタイの形が既に出来上がっていて、ホックでパチッと留めるものは避けましょう。これはサービスに従事するウェイターが毎日結ぶ手間を省くために生まれたものです。フォーマルでこのような考え方は相応しくありません。ゲスト、ましてやホストがこのようなボウタイでは場の品格が失われてしまいます。

 又、ストレートエンドやダイヤモンドチップといったデザインは避け、バタフライかセミバタフライを選ぶのが宜しいと思います。よりフォーマルなのはバタフライですが、これも好みで良いでしょう。

 

 カマーバンド

 

 カマーバンドはウエストコートを簡略化したものです。当時英国の植民地であったインドで、暑さに耐えかねた英国人が、ターバンから着想を得て生み出したもの。代用として認められているため、着用には何の問題もありませんが、あくまで簡略化されたものであることは頭に入れておきましょう。

 白いジャケットの準礼装(盛夏・避暑地専用)ではウエストコートは着用せず、必ずカマーバンドを着用します。

 

 ポケットハンカティー

 

 基本は白無地のリネンのものです。入れ方は燕尾服宜しく最もフォーマルなスリーピークスでも良いですが、フォーマル度が高すぎてポケットハンカティーフだけが浮いてしまう危険がありますので、TVフォールドとスリーピークスを全体的なスタイルやシーンに合わせて使い分けましょう。

 シルクのものの場合は、TVフォールドの方がバランスが取れると思います。

 意外に思われる方もいらっしゃるかと存じますが、本来はリネンが最もフォーマルな素材です。当時リネンは非常に貴重で高価であったこと(富の象徴)、乾きが良く抗菌性があり、機能的にも優れていたため、シャツからベッドシーツに至るまで、あらゆるものはリネンでできていました。 ベッドシーツの保管室を「リネン室」と呼ぶのはこの名残です。

 

 靴

 

 最も正式なのはエナメルのオペラパンプスです。エナメルは「パテントレザー」とも呼ばれ(”特許の革”の意)、女性のドレスを靴墨で汚さないために使われます。リボンのあしらわれたデザインですので、女性のものと思われがちですが、正式な男性のドレスシューズです。

 それ以外の場合、夜(宴)の礼装ですので、プレーントウのものを着用します。

 キャップドトウはつま先の保護のため、革を貼り付け補強した軍靴が由来ですので、昼(儀式)の礼装の際に着用します。

 内羽根式のものほぼ一択ですが、ホールカットやVフロントのものも散見されます。

ホールカットについて、”キングオブシューズ”ジョンロブの見解としては「あくまでビジネス用」とフォーマルでの着用はあまり良いものではないとのことですが、砕けたシーンなら許されるかと...

Vフロントの場合、アイレット数の少ないものを選び、慎重にシーンは見極めるべきです。

 外羽根式やUチップ、メダリオンをあしらったものは避けましょう。

 オペラパンプスでないレースアップシューズを着用する場合は、ハイシャイン(鏡面磨き)で仕上げます(靴墨でドレスを汚さないため)。

 

 生地について

 

 準礼装に限らず、礼装の生地のルールは昼か夜か(儀式か宴か)によって異なります。

 昼(儀式)の場合は黒乃至は非常に濃いチャコールグレー。細かな柄物は許容される傾向にあります。しかし、光沢についてはシビアですので、光沢を極力抑えた生地を選びます。

 夜(宴)の場合は黒乃至はミッドナイトネイビー。昼(儀式)に比べると光沢に対しては寛容で、多少の光沢であれば許容されます。

 現代のフォーマル用スーツであればここまでシビアに考える必要はありませんが、頭に入れておいて損はないでしょう。

 シャツは白の無地が最も無難で最も美しいと思われます。

 

 プリーツ・タック考

 

 準礼装にプリーツ(トラウザーズ)やタック(シャツの背タックや袖タック)は相応しいか、というお話です。

 「ドレス・フォーマルウェアに機能的なものは似合わない」ということは以前にもお伝えしましたが、その理論で考えればプリーツやタックは極力排するのが良いでしょう。私はシャツの袖タック以外はプリーツ・タックは排するべきだと思います。

 まずはトラウザーズのプリーツですが、誕生の経緯からお話します。1920年代、オックスフォード大学の学生の間でゴルフが大流行します。大学に行く前にゴルフ、大学が終わればすぐにゴルフ、授業もゴルフウェアで受ける。この事態を重く見た大学側はゴルフウェアで授業を受けることを禁じました。そこで生まれたのが「オックスフォードバッグス」と呼ばれる非常に太く、プリーツの入ったトラウザーズです。これであればゴルフウェアの上から履くことができるため、オックスフォード大学の学生はこぞって履きはじめました。これがプリーツの由来です。着替える手間を省きたいという思いから生まれたものであり、ゆったりした着用感を生む機能的なプリーツというディテールは準礼装には似合いませんね。

 シャツの背タックも同じ理由で、「腕を動かしやすいように」という機能的なディテールは準礼装には似合いません。

 「シャツの袖タック以外はプリーツ・タックは排するべきだと思います」と申し上げましたが、袖タックを入れるべき理由については、はっきり言って明確なロジックはありません。「男の服にはすべて意味がある」とよく申しますので、ロジックがないというより私の勉強不足ですが、長い間調べ、悩み続けていますが、納得のいく答えに辿り着けていません。現段階での私の考えとしては、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」というなんともぼんやりしたものです。袖タックの存在しないシャツなどあまり聞きませんし、仮にあったとしてもしわが寄ってしまったり不格好になってしまうのでは、と想像できます。そのため、一貫性に欠く部分はありますが、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」を理由に(あまり強い理由ではないが)「シャツの袖タックは2タックが良い”だろう”」という説を推してまいりたいと思います。

 因みに「プリーツ」と「タック」の違いですが、「生地をつまんで折り返し、縫い付けてひだを作ったもの」という意味では同じです。生地をつまんだ時にできた折り目を途中で消したものが「タック」折り目をそのまま付けたものが「プリーツ」です。プリーツの無いトラウザーズは「プレーンフロント」と言います。本来はプリーツがないものが普通だという理由で名付けられたと考えれば、準礼装のトラウザーズにはプリーツは似合わないという説の裏付けとなりますね。

 

 切羽は切るか

 

 現代では高級服、仕立服の象徴のようになっており、「本切羽だから良い」と脳死状態で猫も杓子も切羽を切る方は多いですね。

 何も考えず準礼装の場合も切羽を切ってしまいそうですが、果たしてそれは良いのでしょうか。

 本切羽の由来についてお話します。諸説ありますが、

  1. 医者など、袖周りに衣服があると支障がある職業のため、腕まくりができるように生まれた(人前でジャケットを脱ぐのは無礼で下品という前提で)
  2. 袖口を開けることでジャケットの脱ぎ着を楽にするため

 これらが最も有力でしょうか、どちらも説得力のある説ですが、どちらも準礼装にはそぐわない考え方ですね。脱ぎ着を楽にするという考え方はフォーマルシーンにふさわしくありませんし、腕まくりをする必要もありません。よって準礼装に於いては切羽は切らない方が良いでしょう。

 余談ですが、赤峰先生が本切羽について「手を洗う際に邪魔にならないため」と仰っていました。非常に説得力があり、服だけでなく、マナーや紳士の心構えも大切にされる先生らしい御言葉です。しかし、これは誕生の由来というより、現代における本切羽の存在理由といった感覚ですので、外しました(赤峰先生自身も準礼装の場合は切羽は切らないと仰っています)。

 因みに袖ボタンの誕生はナポレオンが寒冷地に於いて部下が袖で鼻水を拭くのをやめさせるために付けたという説が有力です。この時は袖周りを一周するようについていたそうです。その後、前述の脱ぎ着を楽にするという機能を持たせるため、今のように縦に並べるようになったとのこと。切羽を切らない開き見せの場合、装飾的な意味合いになりますので、英国のパブリックスクールの制服には袖ボタンがないことが多いようです(半人前の服に装飾は不要との考え方)。そう考えれば、切羽を切らない場合、袖ボタン無しという選択肢もあるのかもしれませんね(コスプレチックになってしまう危険はあるが)。

 

 最後の最後まで脱線しましたが、これにて「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」シリーズ完結でございます。前中後編ではまとまらず、十干編に突入した時はどうなることかと思いましたが、十干編は甲の1回でおさめることができました。書き漏れ(これだけ書いておいてまだあるのか)等ありましたら、加筆修正していきますが、一応は完結です。

 長々と御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

 

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 後編

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 前回、前々回に引き続きまして、源流を知るシリーズ「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」です。前回はスモーキングとタキシード、そして夜(宴)の準礼装(ジャケット)のディテールのお話でした。最早このブログの定番となっている脱線を挟みつつ、本日はウエストコート・トラウザーズのディテールのお話からです。宜しくお願い致します。

 

 この記事は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」の後編でございます。先に前中編をお読み頂けると幸いです。

 

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 準礼装独特のディテール(トラウザーズ)

 

 側章

 

 トラウザーズの側面の縫い目を隠すようにシルクを貼ったディテールです。

 起源は諸説ありますが、メジャーなものは3つ。

  1.  縫い目を見せることが恥ずかしく、シルクで覆った
  2. 元々は男性のトラウザーズも女性のスカートのように横開きだったため、その名残
  3. ブリーチズのような膝下丈のものから現在のような長い丈のトラウザーズへ変わってから、兵種の色分けのためナポレオンが採用した軍服のラインの名残

 以上の3つを頭に入れておけば、恥をかくことはないかと思います。

 

 ベルトレス

 

 ディテールとして記載するのが適当かどうか迷いましたが、現代の感覚との乖離がありますので、御説明申し上げます。ジャケットのノーベントと同じようなイメージを持っていただければわかりやすいかと...

 そもそも、「準礼装にベルトは用いない」ではなく、「そもそもベルトという発想がない」と考えるべきです。現代では所謂ビジネススーツ(略礼装)等にベルトを合わせるというのは当然のように行われていますが、源流を辿ると有り得ないことです。

 礼装のトラウザーズはブレイシスで吊る(補助的にサイドアジャスターを用いる)ことを想定して生まれたものでございます。

 では何故ベルトを用いるようになったのかについてお話します。ベルトは、軍服や作業着由来のラギットなものです。チノーズやデニムパンツとよく合いますね。

 対してスーツをはじめとする礼装はウエストコートの着用が基本でした。それが時代の流れとともにウエストコートを省略することが増え、ウエストコートに隠れていたブレイシスが目立つようになります。加えて肩への負担や夏場は暑い、といった欠点が目立つ(それらを加味してもかなりのメリットはありますが...)ようになり、ベルトの着用が増えていきました。

 以上のことから「準礼装にベルトはしない」ではなく、「ブレイシス以外の選択肢はそもそも存在しない」ということがわかりますね。

 

 アングルドヘム(モーニングカット)

 

 トラウザーズの裾部分を斜めにカットしたディテールです。つま先側を短くカットしたもので、裾のだぶつきを防ぎます。軍礼装によく用いらるディテールであるため、ミリタリーヘムと呼ばれ、シングルでの処理が基本です(極極稀にダブルのものも)。

 

 準礼装独特のディテール(ウエストコート)

 

 U字の首元

 

 シャツの第4ボタンあたりまで露出するざっくりと開いたU字のウエストコート。

 燕尾服のウエストコートも意外とざっくり開いているので全体的な形はそのままでしょう。ホワイトコットンピケ地のオッドベストから、ジャケット・トラウザーズと同じ生地に簡略化され、襟も省略されました。燕尾服の尻尾を切り落としたカウズから派生した軽装であるディナージャケットや、部屋着、くつろぎ着として生まれたスモーキング、そしてそれらを参考にしたタキシード、これらは総じて肩肘張ったものではありませんので、簡略化されるのは当然のことだと言えるでしょう。

 

 くるみボタン

 

 ジャケットと同じくくるみボタンを用います(詳細は前回記事「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 中編」を御参照ください)。

 

 背中側の生地 

 

 これははっきりとした資料はありませんが、通常の略礼装の考え方で良いでしょう。

 通常のウエストコートも背中側にはポリエステルやレーヨン(裏地と揃える場合が多い)を用います。

 ジャケットとの滑りをよくするためのもので、ジャケットを脱いでウエストコートだけの姿になることを想定したものではありません。※ウエストコートを省略してジャケットを脱ぎ、シャツ1枚になるよりはよっぽど良いですが...

 背中まで同じ生地で作られたものは、ウエストコート1枚のスタイルを想定しており、使用人側、現代でいうとウェイター用ということになります。

※本来的にはこの考え方ですが、現代においては米国的であったり、たっぷりと生地を使った贅沢な仕様という考え方もありますし、個人的にはリネン生地の場合、背中側の生地がポリエステルやレーヨンだとリネンの良さが損なわれる気がします。私はウエストコート1枚で過ごす想定をしているかどうかで背中側の生地については判断しています。

 準礼装の場合、こだわる方は裏地宜しくシルクを使用するのが良いでしょう。

 またしても脱線を致しました。申し訳ございません。

 

 準礼装独特のディテール(シャツ)

 

 胸ポケット・ダーツは無し

 

 これはドレスシャツ全体に言えることですので、独特のディテールとして御紹介するのは適切ではありませんが、昨今、略礼装であればポケット付きのシャツは容認されているような状況ですので、準礼装では特に御注意頂きたく、お話致します。

 本来礼装に機能的なものは似合いませんし、必要もありません。シャツに胸ポケットを付ける理由は「便利だから」以外にありませんので、準礼装用のシャツに胸ポケットを付けるということは考えられませんね。

 ダーツについては、シャツには袖のパフジング、ウエスト部分のブラウジングと呼ばれるある程度のゆとり・だぶつきが必要です(フォーマルに於いては通常のドレスシャツよりシビアに、必要最低限に抑えるべきですが※中乃上考)。ダーツでタイト(というよりもピタピタ)にしていたのでは本来の美しさが損なわれてしまいます。

 またしても脱線しましたが、これは普段のビジネススーツ(略礼装)のスタイルにも言えることです。

 頭に入れておいて損はないでしょう。

 

 

 

 襟はウィングカラー・レギュラーカラー・セミワイドカラー(開きの角度が広すぎないもの)の3つが適当でしょう。※ウィングカラーの原型である完全な立ち襟のポークカラーはフォーマル度が非常に高い為、準礼装では浮いてしまう可能性があり、除外しました。

 実質的にウィングカラーかレギュラーカラーの二択(セミワイドは砕けた印象)になるでしょうが、ほぼ好みの世界です。米国ではウィングカラーが多い、英国ではレギュラーカラーが多い、ショールカラーならウィングカラー、ピークドラペルならレギュラーカラーなどとよく言われますが、日本ではそこまで気にする必要はないでしょう。

 しかし、英国に於いてレギュラーカラーが好まれる理由、米国に於いてレギュラーカラーが好まれる理由を知っておく必要があります。シャツ単体で見た場合、ウィングカラーの方がフォーマル度は高いでしょう(ポークカラーの先端を少し折ったものがウィングカラー、立ち襟では苦しい為完全に襟を倒したのものがレギュラーカラー)。「それならウィングカラーの方が...」とお思いの方も多いかと存じますが、ここで思い出していただきたいのは”所詮”という考え方です。

 英国では「”所詮”ディナージャケットだからレギュラーカラーでいいじゃない」という考え方があるため、カウズ由来のものとはいえ、レギュラーカラーが好まれます。米国では「折角の準礼装なのだからウィングカラーが良いだろう」という考え方で、ウィングカラーが好まれます。

 どちらが良い悪いではありませんが、理解していて損はないのではないでしょうか。

 個人的にはディナージャケットやスモーキングはレギュラーカラー、カウズやタキシードならウィングカラーが良いかなと思いますが、”所詮”準礼装ですので、やはり好みで良いでしょう。

 後述のカフス同様、糊付けはできるだけ硬い方が望ましいです。

 

 プリーテッド・ブザム

 

 シャツの胸元に1cm間隔のプリーツを付けたディテール(ブザムとは”胸”の意)。

 本来、シャツは下着です。夜(宴)の準礼装は胸元の開いたウエストコートを着用しますので、胸の詰まったウエストコートを着用するときよりもシャツ(下着)が見える範囲が広がります。「下着を見せるなんて...」「できるだけ隠したい」そんな思いから胸元に別の生地を付けることで「これは下着ではありません」とアピールするわけです。

 燕尾服に合わせるシャツにはスターチド・ブザム(スターチドは”硬く糊付けした”の意)といい、胸元に硬く糊付けした布をつけるものもあります。元々は硬く糊付けした布でスタイのようなものを作り、身に着けていました。それが段々とシャツと一体になったものがスターチド・ブザム(日本では”イカ胸”とも言う)です。どちらも正式なドレスシャツのディテールですが、若干用途に違いがあります。

 夜(宴)の準礼装はブラックタイ、正礼装である燕尾服はホワイトタイです。しかし、ホワイトタイよりも格式のあるドレスコード「デコレーションズ」が存在します。

 燕尾服を着用することはホワイトタイと変わりませんが、勲章を身に着ける点が違います。日本でも天皇陛下が儀式に於いて最高位の大勲位菊花章頸飾を佩用されていますね。

 首から勲章を下げる際のいわば「勲章受け」としてデコレーションズの場合はスターチド・ブザムのシャツを着用します。※勲章を身に着けない場合もスターチド・ブザムのシャツを着用することは何ら問題ありません。

 ディナージャケット・カウズは避暑地で誕生し、スモーキングはくつろぎ着として作られました。これらを参考にしたタキシードは言わずもなが、勲章を下げるような場面で着用することは有り得ません。私中乃上の個人的な意見ですが、デコレーションズを連想させ、ドレスシャツの中では最もフォーマルなスターチド・ブザムよりも、プリーテッド・ブザムの方が相性が良いのではないでしょうか。

※あくまで私個人の意見ですし、「合いやすいのではないか」というだけでスターチド・ブザムを準礼装で着用することは正しいことですので、気にする必要はありません。デコレーションズの場合はスターチド・ブザムというルールだけは頭の片隅に置いておいて損はないでしょう。

 完全な中乃上のひとりごとでございます。

 

 フロントボタン

 

 先程も申しました通り、シャツは下着です。下着そのもの、下着のボタンを見せるのは恥ずかしいことですね。フロントボタンを隠す方法は2通りあります。

 1つはスタッドボタン。ボタンカバーのようにボタンに被せるものもありますが、正式にはボタンのついていない、穴をあけただけのシャツにはめ込む固定式のものを着用します。これもやはり下着のボタンを見せるのは恥ずかしいという思いから宝石や貴金属のボタンを付け、「これはアクセサリーで、下着のボタンを見せるなんて下品なことは致しませんよ」とアピールするものです。ゴールドかシルバーの台座(最もフォーマルに相応しいのは光沢を抑えたシルバーだが、シーンに合わせて使い分ける)に、オニキスのものを身に着けます。

 準礼装に限らず、夜(宴)の礼装はオニキスのもの、昼(儀式)の礼装は白蝶貝のものを着用するというルールがありますが、これは昼は自然光の中で映えるものを、夜は照明の中で映えるものをという考えから来ているものです。※喪の場面では、昼夜、宴か儀式か(喪の場面で宴という表現は適切ではありませんが)を問わず、オニキスの小物を身に着けます(台座もシルバー乃至は黒が望ましい)。

 もうひとつはフライフロントと言い、前立てを比翼仕立てにし、布で覆ってしまうものです。この場合、胸に糊付けした布であるとか、プリーツはつけません。それらを付けたシャツに比べると、砕けた印象を与えます。

 

 カフス

 

 カフス周りについては、カフリンクスの着用は絶対です。これもスタッドボタンと同じ理由で、同じようにゴールドかシルバーの台座にオニキスのものを身に着けます。(台座のカラーはスダッドボタンと揃える)

 フレンチカフス(ダブルカフス)かバレルカフス(シングルカフス)かは、迷う方も多いでしょう。「フレンチカフスの方がフォーマルだ!」とお思いの方も多いでしょうが、本来はバレルカフスの方がフォーマルです。しかし、現代のバレルカフスとは若干の違いがありますので、御注意ください。

 本来、ドレスシャツの襟とカフスは非常に硬く糊付けされていました。プラスチックのように固く糊付けされたカフスは、折り返すことなどできませんので、勿論バレルカフスです。時代と共に糊付けが薄く、柔らかくなっていき、「これでは心許ない」ということで折り返され、フレンチカフスが誕生しました。英語に於いて「フレンチ」というワードが出てくるとあまり良い意味ではないというのは想像に難くありませんが、「フランス人のやりそうなことだ」と皮肉を込めて名付けられたカフスですので、フォーマル度では劣ります。

硬く糊付けされたバレルカフス>フレンチカフス>糊付けされていないバレルカフス

↑このように考えると宜しいかと思います。

 コンバーチブルカフスは相応しくありません。バレルカフスの場合は、ボタンの無いテニスカフスにしましょう。

 

 前中後編で収めるはずでしたが、お伝えしたいことも多く、脱線も重ねてしまいましたので、次回「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲」へと続きます。

 御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

 

 追記:「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲」公開致しました。こちらも宜しくお願い致します。

 

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ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 中編

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 前回に引き続きまして、源流を知るシリーズ「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」です。前回はディナージャケットとカウズのお話、かなり

多少脱線しまして今回はスモーキングからです。宜しくお願い致します。

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの総称として「準礼装」を用います。

 

 この記事は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」の中編でございます。先に前編をお読み頂けると幸いです。

 

kutsuyasan.hatenablog.com

 

 

 スモーキング

 

 前回のディナージャケットは、燕尾服の尻尾を切り落としたカウズから派生したいわば軽装であり、所詮...という考え方が前提だと申し上げましたが、スモーキングはまた誕生の仕方が違います。

 生みの親はまたしても稀代の洒落者、エドワード7世なのですが、燕尾服ありきで誕生したカウズやディナージャケットと違い、スモーキングはエドワード7世がサヴィルロウのテーラーに作らせた服だったのです。

 前回も軽く触れましたが、当時は燕尾服での食事が基本。姿勢を正して静かに食事。

 政治や宗教の話は厳禁。女性の話など以ての外。それはまぁ堅苦しい食事だったそうです。当時の紳士たちの楽しみは食事の後の煙草でございます。そこなら政治や宗教、気に入った女性の話もして良い(少々下世話ですが)食事会の抑圧から解放された憩いの場に堅苦しい燕尾服では...ということで作られた服がスモーキングです。

 現代でもビジネスの場で政治・宗教・野球の話は三大タブーといいますが、仕事終わりのbarで常連客同士「カージナルスから5人もゴールドグラブかぁ」「yadiが落選するなんて...」激務の重圧から解放され、気の置けない友人と野球談議に花が咲く。こんなイメージでしょうか。

 またまた脱線しましたが、少し極端な例を挙げればビジネススーツを燕尾服とすれば、ネクタイをほどいてシャツのボタンを開けたスタイルがカウズやディナージャケット、barに行くために各々好きな服装に着替えたスタイルがスモーキング、少し乱暴ですがイメージは沸きやすいのではないでしょうか。

 真偽のほどは定かではありませんが、エドワード7世はサヴィルロウのテーラーを呼びつけるわけではなく、当時は皇太子であるエドワード7世自ら店に出向いて「食事の後、煙草を吸って寛ぐ服を作ってくれないか」と注文したなんて逸話もあります。眉唾物ですが、このようなエピソードも服飾を楽しむ要素のひとつではないでしょうか。

 全体的にはカウズのようなデザインで、襟はショールカラー、袖口は折り返されたターンナップカフ、拝絹はキルティング仕様だったとか。※拝絹等のディテールについては後述します。

 これが1870年代、欧州全体で流行します。

 元々あるかっちりしたスタイルを崩したのがディナージャケット、リラックスする目的で作り出されたのがスモーキングです。燕尾服・カウズの威厳を残した品格漂うディナージャケット、リラックスした隙が色気を醸し出すスモーキング、といった具合に私の中では何となしに住み分けがなされています。

 

 以上のことから、スモーキングは

  1. 生みの親はまたしてもエドワード7世
  2. 煙草を愉しむためのくつろぎ着
  3. カウズをルーツに持つディナージャケットと違い、オリジナルで作成されたもの
  4. カウズに近いが、細部の違いは多い

 このようにまとめることができます。

 

 タキシード

 

 夜(宴)の準礼装の末っ子がタキシードです。ディナージャケットは主に英国で、スモーキングは欧州全体で流行していますが、タキシードの誕生・流行の場は米国でございます。

 英国や欧州で流行するカウズ・ディナージャケット・スモーキングを目ざとく発見した米国の煙草王の息子、グリスウォルド・ロリラード氏が生みの親。

 1886年10月10日、米国ニューヨーク州のオレンジカウンティにある「タキシード・パーク」において第1回、タキシードクラブが催されました。その席にロリラード氏は真っ赤なカウズに黒のトラウザーズを合わせたスタイルで参列し、以降そのカウズはタキシードクラブのユニフォームとなり、タキシードと名付けられたのです。その後、形を変えながらニューヨークを中心に流行しました。

 タキシードといえばショールカラーのイメージが強かった中乃上ですが、最初はカウズ、ピークドラペルだったと知ったときは驚きました。

 先程も申しました通り、準礼装の末っ子ですから、カウズ・ディナージャケット・スモーキングのエッセンスを取り入れて進化していったのでしょう。

 私の中では、カウズ・ディナージャケットの威厳、スモーキングの色気をうまく共存させた「準礼装のるつぼ」がタキシードでは...と勝手に納得しています。

※米国だけに...と準礼装のるつぼという言い方をしましたが、今は米国を「人種のるつぼ」ではなく「人種のサラダボウル」と言うそうです。無秩序に混ざり合ったるつぼよりも、ひとつの国で様々な人種が共存するという意味でサラダボウルが適切だろうということです。「準礼装のサラダボウル」の方が良いのかな?

 

 以上のことから、タキシードは

  1. 準礼装の末っ子的存在で、カウズ・ディナージャケット・スモーキングを参考に米国で生まれた
  2. 生みの親はグリスウォルド・ロリラード氏
  3. 元は色付きで制服としての側面を持っていたが、形を変えつつ流行していった
  4. カウズ・ディナージャケット・スモーキングの混合のようなイメージ

 このようにまとめることができます。

 準礼装独特のディテール(ジャケット)

 ここからは表題の3種の準礼装(ジャケット)に共通して見られるディテールのお話です。

 よく「スーツとタキシード(準礼装の総称として)の違いとは?」というような疑問はあると思いますが、その答えに重なる部分が多くあります。

 

 拝絹(シルク・フェーシング)

 

 まずは拝絹(はいけん)です。正式には「シルク・フェーシング」と言いまして、ジャケットの襟部分にシルクを貼ったもので、目につきやすい特徴的なディテールです。

これの起源は、現在のテーラードジャケットの原型からお話するのが良いでしょう。

元来、我々がジャケットと呼ぶものは学生服(学ラン)のような詰襟・立襟のものでした。いくつかボタンを開け、襟を倒したものが、現在のテーラードジャケット。当時のジャケットの裏地はシルクが良く使われていましたので、折り返した襟の部分からシルクが露出します。拝絹というディテールはこの名残。夜(宴)の礼装ですから、夜の薄暗い照明でも顔が良く映えるように...という意味もあるようです。

 

 くるみボタン

 

 くるみボタンとは、水牛やナット、金属等のボタンを上記の拝絹と同じシルクでくるんだボタンのことです。フロントボタンや袖ボタンをシルクでくるみます。

 「どうだ!」という主張の無い、これ見よがしでない、なんとも奥ゆかしいディテールですね。

 因みに腰ポケットの玉縁部分にもシルクを貼ります。(室内着のためポケットフラップも無し)

 

 ノーベント

 

 夜(宴)の準礼装にはベントと呼ばれるジャケット背中側の切れ込みはありません。

 これは「準礼装にはベントがない」という考え方より、「現代のジャケットにはベントがある」という考え方の方が適切かと思います。

 ベントには主に2種類あり、現代最もよく見かけるのは背中の縫い目の続きのように1本の切れ込みが入ったセンターベント。これは馬に乗る際、邪魔にならないように...という意味があり、軽快でスポーティな印象です。

 もうひとつは腰の両側に2本の切れ込みが入ったサイドベンツ。これは腰に剣を携える際に邪魔にならないように...という意味があり、重厚でクラシカルな印象です。

 ベントには他にもありますが、それはまた別の機会に...

 準礼装を着用する場面では馬に乗ることも剣を携えることもありませんので、ベントは必要ないですね。ベントとは準礼装の後に生まれた機能的なもので、準礼装に於いてはベントという発想自体がないということでしょう。

 

 

 

 拝みボタンを考える

 

 「タキシードには拝みボタンが最も正式」という話をよく聞きますが、スモーキングは別として、ディナージャケット・タキシードはカウズ・燕尾服をルーツに持つ服です。

※スモーキングも燕尾服を参考にしている可能性は大いにありますが...(スモーキングはカウズよりも歴史が深い)

 そのためボタンを留めないダブルブレストから派生しており、1つボタンのシングルブレストは省略された形です。拝みボタンはモーニングコート(昼(儀式)の礼装)のディテールですので、参考にしたとは考えにくく、個人的には説明がつかないなと感じます。しかし、拝みボタンは左右対称で美しいため、取り入れるのも良いでしょう。

 

 

 またしても長くなってしまいましたので、ウエストコート・トラウザーズのディテールや、シャツ等のお話は次回以降に致します。

 御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

 

 追記:後編を公開致しました。こちらも宜しくお願い致します。

 

kutsuyasan.hatenablog.com

 

 

 

 

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 前編

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 このブログ最初の企画は「源流を知る」シリーズです。

 企画だのシリーズだのと大層に銘打つようなものではございませんが...

 現代におけるドレス・フォーマルスタイルに始まり、スーツ・カジュアルスタイルに至るまで、すべてのものには源流、即ちクラシックスタイルが存在します。

 私の尊敬する日本服飾会の重鎮、赤峰幸生大先生も「クラシックの道は一つしかない、それをどう噛み砕くかだ」と仰っていました。昨今、ビジネス界では「クールビズ」が蔓延し、カジュアルスタイルでも「ハズシ」やらなんやら無法地帯で、クラシック・源流を知る機会も無くなっているのではないでしょうか。

 男は...女は...なんてことを大っぴらに発言するのが憚られる時代ではありますが、

「男の服にはすべて意味がある」とも「男は主義で洒落る。女は趣味で洒落る。」とも言います。男性の服というのは特に理論や知識が必要になってきます(知識一辺倒もまた問題ですが)ので、源流を知らずしておかしな知識ばかりつけるというのは大変危険です。

 前置きが長くなりましたが、私が今まで学んできたクラシックスタイルの知識を体系的にまとめたものです。誤りや不明点等ございましたら遠慮なく御指摘・御質問ください。

 

 第一回は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」です。源流・クラシックを学ぶという意味では燕尾服やモーニングの方が良かったかもしれませんが、より現代の生活に近く、馴染みのあるものから始めていきたいと思います(燕尾服やモーニングも執筆予定です)

 

www.youtube.com

↑赤峰先生の身が引き締まる御言葉です。

 

それでは、宜しくお願い致します。

 

 

 「タキシード」と一括りにするのでは不十分

 

 ブログタイトルを「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」とわざわざ3通りの言い方をしたのには理由があります。

 この3つは完全な別物だからです。

 「英国風に言えばディナージャケット、仏国風に言えばスモーキングでしょ?」なんて一問一答的に覚えていたとしても不十分。出自やディテール・歴史等しっかり学んでいきましょう。

 

 ディナージャケット

 

 まずはディナージャケットです。ディナージャケットを語るうえで必要なのは

「カウズ」です。これは簡単に言えば燕尾服の尻尾の部分を切り落としたものです。

 1880年の夏、英国南端のワイト島(ヴィクトリア女王の保養地で王侯貴族の夏の社交場)において、女王主催のパーティーが催されました。

 そこに尻尾を切り落とした燕尾服で現れたのがエドワード7世です。当時としては相当な衝撃だったはずですが、そこは流石の洒落者、エドワード7世の着ていた風変わりな燕尾服は「別荘地でくらい良いじゃない」とその場の貴族たちの心を掴んだ...かどうかはわかりませんが認められ、ワイト島内のみで着用可となりました。「カウズ」と名付けられたその服は、徐々に英国本土・ロンドンでも認められるようになり、現代のディナージャケットへ続きます。

 因みに「ディナージャケット」という名前は、燕尾服での食事が当たり前の時代にエドワード7世がヨットの上での食事の際、「ヨットの上くらいいいじゃない」とカウズやカウズから派生した服装で食事をとったことに由来するそうです。

 「カウズ由来のものだということはわかったけど、現代のディナージャケットと形が全然違うじゃないか」とお思いの方も多いかと存じます。カウズは燕尾服の尻尾を切り落としたもの。ボタンを留めないダブルブレストのジャケットに白コットンピケ地のウエストコート、グレーに黒いストライプが入ったトラウザーズ、糊のきいた白いボウタイ...しかし現代はジャケット・ウエストコート・トラウザーズすべてが黒い共地で黒のソフトなボウタイです。確かにかなり違いがありますね。前提となる考え方は、カウズの出自、名前の由来等から、あくまでディナージャケットは燕尾服の代わりで「ここは砕けた場だからディナージャケット”で”構わない」という現代の感覚とはだいぶ違うものがあります。”所詮”ディナージャケットということですね。

 糊のきいた白いボウタイは汚れも目立つし結び直しもきかず、結び損ねたら新しいボウタイを出してこなければならない。

「じゃあ”所詮”ディナージャケットだから黒のソフトなボウタイでいいよ」

 現代の感覚ではわかり辛い部分ですが、本来ジャケット・ウエストコート・トラウザーズはすべて別々の布で作ったほうがフォーマルです。

 「スーツよりジャケパンの方がフォーマル度では劣るじゃないか」なんて思ってしまいそうです。しかし、ジャケパンはジャケットとトラウザーズの組み合わせ、ネイビーブレイザーとグレーのトラウザーズの組み合わせを例にとって考えてみましょう。ブレイザーはブレイザー、トラウザーズはトラウザーズとして作られたもの。それを我々が勝手に組み合わせているだけなので、カジュアルの度合いが強くなります。

 そう考えるとどうでしょう、「燕尾服やモーニングをバラバラに組み合わせて楽しむ」なんてことは考えられません。燕尾服はジャケット・ウエストコート・トラウザーズをまとめて「燕尾服」となります。揃えて着るためのものなのにわざわざ別々の布で作るなんて手間のかかることをした服、フォーマルの度合いが強くなるように感じませんか?

 脱線してしまいましたが、「”所詮”ディナージャケットなんだから別々の布で作るなんて面倒くさいことはしなくていいよ」ということで現代でいうところのスリーピーススタイルになったのでしょう。

 ジャケットのフロントボタンについてですが、燕尾服・カウズの流れを汲んでいるため、6つボタンのダブルブレスト(ボタンは留めない)からシングルブレストの2つボタンに省略されたようです(このときもボタンは留めない)私たちのよく知るボタンを留めるシングルブレストの1つボタンというスタイルになったのは1893年頃からだそうです。どんどん省略されていくのも”所詮”ディナージャケットという考えが表れていますね。よく「ディナージャケットが1つボタンなのだから1つボタンが最もフォーマルだ!」なんて熱弁を振るってらっしゃる方をお見掛けしますがなんとも表層的で浅はかだなぁ...と失笑を通り越して惻隠の情さえ感じます。

 以上のことからディナージャケットとは

  1. 燕尾服の尻尾を切り落とした「カウズ」が由来
  2. 19世紀の後半に生まれ、変化して形作られていった
  3. 本来は肩肘張ったものではなく、気楽な服だった
  4. 所詮...という考え方のもと、省略され、現在の形に変化していった
  5. エドワード7世が生みの親

 このようにまとめることができます。

 

 もう少し文量を抑えるはずが、ついつい長くなってしまいましたので、スモーキングやタキシードのお話は次回以降に致します。

 御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

 

 追記:中編を更新いたしました。こちらも宜しくお願い致します。

 

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