すのっぶにござりまする。

服飾を通して文化を学びたい男のひとりごと

昼か夜かは重要か・ディレクターズスーツとは何者か

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 本日は「昼か夜かはそこまで重要か」というお話です。モーニングは昼、燕尾服は夜、など18時を境に礼装に変化があるという話は一度は耳にしたことがあると思います。これが間違いかと言うと、間違いではありません。しかし100%正しいかと言うとそうでもありません。個人的に、「昼か夜か」より重要なことがあると思っておりますので、そのお話です。

 もうひとつの「ディレクターズスーツとは何者か」につきましては、おまけ程度のお話ですので、まずは「昼か夜かはそこまで重要か」に御付き合い下さい。

 

 

モーニングか燕尾服か

 

 昼か夜かを重視する場合、正礼装で結婚式(19:00~)を執り行うのなら、「19:00は夜にあたるから燕尾服だな」と言う考え方になります。「内閣組閣の時は夜なのにモーニングを着るなんて」と怒る方はこうした考えなのでしょう。しかし、私個人としては、

「昼か夜か」よりも「儀式か宴か」を重視すべきだと思っています。そのため、時間帯は関係なく結婚”式”ならモーニング、内閣組閣も式典・儀式なのだからモーニングで正解と言うことになりますね。

 服飾後進国と言われる日本に於いて珍しい正解でした。

 結婚式の話に戻りましょう。宴か儀式かを重視する場合、結婚式は儀式の礼装、スーツはグレーで間違いないでしょう。ですが、このように機械的に覚えてしまうのは宜しくありません。ゲストの立場から見ると出席するのはほとんどの場合披露”宴”でしょう。神仏に結婚を誓う結婚”式”は親族だけで執り行われる場合がほとんどです。披露宴のみの出席であれば、宴の礼装、ネイビースーツが相応しいでしょう。本来、ボウタイは宴のみ、結び下げ式のネックウェアは儀式のみですが、略式の場合は宴に結び下げ式のネックウェアで出席しても良いかと思います(流石に儀式にボウタイは厳しいか...)。

 結婚式と披露宴の両方に出席する場合、着替えの必要があります。現代に於いてそこまで気にする必要はないと言われればそれまでですが、本来の形を理解しておく必要は十二分にあるでしょう。

 ネイビースーツとグレースーツについてですが、グレーは儀式、ネイビーは宴と覚えると良いでしょう。しかし、スーツ(略礼装と平服の中間あたりとして)で出席可能な程度のフォーマル度であればそこまで気にする必要はないかと思います。

 又、そこまで気にする必要のないこぼれ話ですが、儀式の場合は光沢のある生地はNG、細かなストライプ等の柄は案外許容される、宴の場合は生地の光沢は多少であれば許容されるといった傾向があります。覚えておいて損はないでしょう。

 

キャップトウかプレーントウか

 

 こちらも儀式か宴かで判断しましょう。キャップトウは儀式用、プレーントウは宴用です。

 キャップトウの横一文字の縫い目は軍靴が補強用の革を縫い付けたことから来ている為です。

 ホールカットについては、スーツ(略礼装と平服の中間として)の場合、着用しても問題ないでしょうが、ディナージャケット以上の礼装に合わせるのは避けた方が無難かと思われます。ジョンロブの公式見解も「ビジネスに最適」とのことですので、格式高い場面では避けることをお勧めします。

 どのような靴であれ、よく磨かれていることが大前提です。

 

オニキスか白蝶貝か

 

 カフリンクス等の小物のお話です。これは例外的に昼か夜かで選ぶべきだと思います。何故なら「白蝶貝は昼、自然光に映えるように」「オニキスは夜、照明に映えるように」という理由で選ばれているからです。

 モーニングや燕尾服をパッケージとして捉え、モーニング×オニキス、燕尾服×白蝶貝という”ねじれ”を感じる方もいらっしゃるとは思いますが、例えば喪のシーンに於いてはモーニングであれ何であれオニキスのカフリンクスです。喪という宴は存在しない世界に於いてオニキスを着用しますので、オニキス=宴という等式は成立しないでしょう。通夜や告別式等の儀式に於いて白蝶貝のカフリンクスを着用しない以上、

白蝶貝=儀式という等式も成立しないはずです。ここはやはり、儀式か宴かは一旦端に置いて、昼か夜かで選ぶべきでしょう。

 

ディレクターズスーツとは何者か

 

 「昼(儀式)の準礼装」と言えば?というアンケートを日本人男性100人に取ったとして、恐らく8割の方は「ディレクターズスーツ」と回答されるでしょう。

 正直申しまして私はディレクターズスーツと言う言葉があまり好きではありません。伝わらない場合が多い為渋々使っています。ディレクターズスーツとは純然たる和製英語です。和製英語だから使いたくないわけではありません。クレリックシャツは普通に使います。ディレクターズスーツという言葉の違和感が嫌で使っていないのです。

 サックスブルーのシャツを「ワイシャツ」と呼ぶ違和感に近いでしょうか。「これはカラーシャツだ」と言いたくなるのと似たような感覚で「これのどこがスーツなんだ」と言いたくなります。ディレクターズスーツと呼ばれているものは、ブラックのジャケット・シルバーグレーのウエストコート・コール地のトラウザーズで構成されており、”揃って”いないのです。スーツとは揃っているの意。スリーピーススーツも「三つ揃え」。極論を言えばスウェット上下もスーツなのです。

 「ディレクターズスーツと言う言葉が適当でないのはわかったが、何と呼べばいいのだ」と言う声が聞こえてきそうなのでお答えします。フランス語で「ベストノワール」若しくは英語で「ブラックジャケットアンドストライプトラウザーズ」です。主にベストノワールと呼ばれているようです。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、「フレンチカフス」と同じ匂いがしますね。もともと使用人の服をやんちゃな貴族の子息がお召しになって広まった経緯があるらしく、「本物の貴族は着ない」というような扱いだった時代もあるそうです。現代に於いてはしっかりした礼装ですので問題ありませんがこんな話も服飾を楽しむ醍醐味でしょう。

 脱線しましたが、ディレクターズスーツではなく、ディレクターズジャケットなら良いのだろうと思います。宴の準礼装のことはディナースーツでも良いかもしれません。

 

 御付き合い頂き有難うございました。また次回、お会いしましょう。