すのっぶにござりまする。

服飾を通して文化を学びたい男のひとりごと

プリーツ・タック考

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 前回に引き続きまして、私の独り言にお付き合いください。

 本日は「プリーツ・タック考」でございます。今までの記事と重複する部分はありますが、宜しくお願い致します。

 

kutsuyasan.hatenablog.com

 準礼装の源流を知る甲で触れておりますので、宜しければこちらも合わせてお読み頂けると幸いです。

 

 プリーツ・タック考

 

 プリーツ・タックの違い

 

 「プリーツ・タックの違いとは?」と聞かれ、返事に窮する方も多いと思われます。

人によっては「プリーツプリーツと粋がりやがって、タックでいいだろタックで」というかなり偏った狭い見方しかできない方もいらっしゃるようです(とあるプリーツの入ったトラウザーズを紹介する動画のコメント欄でお見掛けしました)。

 この2つは「生地をつまんで折り返し、縫い付けてひだを作ったもの」という意味では同じものです。折り返した際にできる折り目をひだに連続させて付けたものがプリーツ。折り目を付けないひだだけのものがタックです。折り目(トラウザーズで言うとセンタークリース)の有無で判断します。決して「かっこいいからプリーツ」と言うわけではありませんのでお気を付けください。

 

 プリーツ

 

 トラウザーズのプリーツについてです。プリーツは英国の名門大学であるオックスフォード大学で生まれました。大学でゴルフが大流行した際、ゴルフウェアの上からでも着用できるようにと非常に太いシルエットの「オックスフォードバッグス」が考え出され、これまた大流行。バギーパンツの原型でもありますが、プリーツのルーツもここにあります(詳細は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲」をお読み頂ければと思います)。

 こういった経緯から「フォーマルウェアにはプリーツは適さない」と結論付けました(フォーマルウェアに機能的なものは似合わないため)。

 しかし、ビジネスやカントリー、普段着としてのトラウザーズにはよく似合いますし、是非入れたいとさえ思います。クラシックな趣がありますし、ゆとりがあって履き心地も良いですね。前回の独り言でも紹介したAtelier BERUNの竹内さんも「スリーピーススーツのトラウザーズにはプリーツが必須」と仰っていました。

※これはフォーマルで以外のルールだと理解しています(中乃上個人の見解)。


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 もうひとつの例外としてアイビースタイルもプリーツ無し(プレーンフロント)が良く似合います。こちらのプレーンフロントはデニムやチノーズといったラギットなものをルーツに持つのでしょう。

 ワークウェアやカジュアルウェア由来のプレーンフロントか、オックスフォードバッグス以前のトラウザーズ由来のプレーンフロントかによって捉え方が大きく変わります(「同じプレーンフロントだろ」と言われればそこまでですが...)。

 因みに「ノープリーツ」とは申しません「プレーンフロント」で御座います。

 プレーン(標準)のものであるということから「フォーマルウェアにはプレーンフロント」論の補強になりますね。

 さて、このプリーツにもパターンがあります。「アウトプリーツ」「インプリーツ」このふたつを御存知でしょうか。現代に於いては九分九厘アウトプリーツです(既製服の場合は十割と言っても差し支えないでしょう)。アウトプリーツは米国風、インプリーツは英国風なんてことも申しますが、実際の違いとは何なのでしょう。

 アウトプリーツは生地をつまんだ「タック」部分のひだの向きが外側(トラウザーズのポケット側)で、指を入れると指と指が向き合います。インプリーツはその逆で、ひだが内側向きです。

 インプリーツはトラウザーズを履いた場合もタック部分が広がりにくく、すっきりして(プリーツの入ったトラウザーズのなかでは)フォーマル寄りな印象を与えます。英国発祥且つプリーツの源流ですので、クラシックな趣があり、スリーピーススーツやかちっとしたスタイルによく合いますね。

 アウトプリーツは手間のかかるインプリーツに比して工程が簡単ですので、大量生産の米国で生まれました。スポーティで軽快な印象を与え、ツーピーススーツやジャケパンスタイルによく合いますね。

 プリーツの入ったトラウザーズの良さを遺憾なく発揮できるのはブレイシスで吊るスタイルでしょう。センタークリースが綺麗に出て、トラウザーズを美しく履くことができます。ラギットなものにルーツを持つプレーンフロントはベルトがよく合いますね。

 しかし、ワークウェアに於いては映画「ショーシャンクの空に」にもあるようにブレイシス(米国的にサスペンダーと呼ぶのが良いか)も非常によく似合います。ミリタリーに於いてはやはりベルトでしょう。

 

 タック

 

 ここではシャツのタックについてです。背タックや袖タック、ダーツの入ったシャツもありますね。ダーツは生地をつまんで、その部分を完全に縫い込んだものです。

 体に極端にフィット(と言うよりピタピタ)するダーツ入りのシャツはドレスシャツに相応しくありません。赤峰先生も「間違ってもダーツの入ったシャツを選ぶな」と仰っていて、生意気ながら私も完全に同意見です。


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 フォーマルウェアに於いては背タックは相応しくなく、袖タックに於いては例外的に2タック入れた方が良いというのは準礼装の源流を知るシリーズ甲でお話しました。

 

「シャツの袖タック以外はプリーツ・タックは排するべきだと思います」と申し上げましたが、袖タックを入れるべき理由については、はっきり言って明確なロジックはありません。「男の服にはすべて意味がある」とよく申しますので、ロジックがないというより私の勉強不足ですが、長い間調べ、悩み続けていますが、納得のいく答えに辿り着けていません。現段階での私の考えとしては、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」というなんともぼんやりしたものです。袖タックの存在しないシャツなどあまり聞きませんし、仮にあったとしてもしわが寄ってしまったり不格好になってしまうのでは、と想像できます。そのため、一貫性に欠く部分はありますが、「袖タックを複数入れ、フレアになった袖口が美しく、フォーマル・ドレスな印象が非常に強い」を理由に(あまり強い理由ではないが)「シャツの袖タックは2タックが良い”だろう”」という説を推してまいりたいと思います。

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 甲 - すのっぶにござりまする。

 

 これはフォーマルでの話ですので、ビジネスやカントリー、普段着としてのスーツやジャケパンに於いては、「動きやすさをとって背タックを入れる」「すっきりとさせたいから背タックは入れない」「袖2タックでは仰々しく感じるから1タックにしておく」等、それぞれの価値観で構わないと思います。

 

 「私の考えが正しいから覚えておきなさい」などと申し上げるつもりはありません。服というものはすべて源流を知り、自分なりに咀嚼して落とし込むことが最も重要です。自分が納得する答えを出し、実践することが服飾の醍醐味ではないでしょうか。

 

 まとまりのない本当にただの「独り言」でしたが、御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。