すのっぶにござりまする。

服飾を通して文化を学びたい男のひとりごと

ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る 前編

 初めましての方はお初にお目にかかります。中乃上 忠助(なかのうえ ちゅうすけ)と申します。そうでない方はいつも有難うございます。中乃上でございます。

 

 このブログ最初の企画は「源流を知る」シリーズです。

 企画だのシリーズだのと大層に銘打つようなものではございませんが...

 現代におけるドレス・フォーマルスタイルに始まり、スーツ・カジュアルスタイルに至るまで、すべてのものには源流、即ちクラシックスタイルが存在します。

 私の尊敬する日本服飾会の重鎮、赤峰幸生大先生も「クラシックの道は一つしかない、それをどう噛み砕くかだ」と仰っていました。昨今、ビジネス界では「クールビズ」が蔓延し、カジュアルスタイルでも「ハズシ」やらなんやら無法地帯で、クラシック・源流を知る機会も無くなっているのではないでしょうか。

 男は...女は...なんてことを大っぴらに発言するのが憚られる時代ではありますが、

「男の服にはすべて意味がある」とも「男は主義で洒落る。女は趣味で洒落る。」とも言います。男性の服というのは特に理論や知識が必要になってきます(知識一辺倒もまた問題ですが)ので、源流を知らずしておかしな知識ばかりつけるというのは大変危険です。

 前置きが長くなりましたが、私が今まで学んできたクラシックスタイルの知識を体系的にまとめたものです。誤りや不明点等ございましたら遠慮なく御指摘・御質問ください。

 

 第一回は「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」です。源流・クラシックを学ぶという意味では燕尾服やモーニングの方が良かったかもしれませんが、より現代の生活に近く、馴染みのあるものから始めていきたいと思います(燕尾服やモーニングも執筆予定です)

 

www.youtube.com

↑赤峰先生の身が引き締まる御言葉です。

 

それでは、宜しくお願い致します。

 

 

 「タキシード」と一括りにするのでは不十分

 

 ブログタイトルを「ディナージャケット・スモーキング・タキシードの源流を知る」とわざわざ3通りの言い方をしたのには理由があります。

 この3つは完全な別物だからです。

 「英国風に言えばディナージャケット、仏国風に言えばスモーキングでしょ?」なんて一問一答的に覚えていたとしても不十分。出自やディテール・歴史等しっかり学んでいきましょう。

 

 ディナージャケット

 

 まずはディナージャケットです。ディナージャケットを語るうえで必要なのは

「カウズ」です。これは簡単に言えば燕尾服の尻尾の部分を切り落としたものです。

 1880年の夏、英国南端のワイト島(ヴィクトリア女王の保養地で王侯貴族の夏の社交場)において、女王主催のパーティーが催されました。

 そこに尻尾を切り落とした燕尾服で現れたのがエドワード7世です。当時としては相当な衝撃だったはずですが、そこは流石の洒落者、エドワード7世の着ていた風変わりな燕尾服は「別荘地でくらい良いじゃない」とその場の貴族たちの心を掴んだ...かどうかはわかりませんが認められ、ワイト島内のみで着用可となりました。「カウズ」と名付けられたその服は、徐々に英国本土・ロンドンでも認められるようになり、現代のディナージャケットへ続きます。

 因みに「ディナージャケット」という名前は、燕尾服での食事が当たり前の時代にエドワード7世がヨットの上での食事の際、「ヨットの上くらいいいじゃない」とカウズやカウズから派生した服装で食事をとったことに由来するそうです。

 「カウズ由来のものだということはわかったけど、現代のディナージャケットと形が全然違うじゃないか」とお思いの方も多いかと存じます。カウズは燕尾服の尻尾を切り落としたもの。ボタンを留めないダブルブレストのジャケットに白コットンピケ地のウエストコート、グレーに黒いストライプが入ったトラウザーズ、糊のきいた白いボウタイ...しかし現代はジャケット・ウエストコート・トラウザーズすべてが黒い共地で黒のソフトなボウタイです。確かにかなり違いがありますね。前提となる考え方は、カウズの出自、名前の由来等から、あくまでディナージャケットは燕尾服の代わりで「ここは砕けた場だからディナージャケット”で”構わない」という現代の感覚とはだいぶ違うものがあります。”所詮”ディナージャケットということですね。

 糊のきいた白いボウタイは汚れも目立つし結び直しもきかず、結び損ねたら新しいボウタイを出してこなければならない。

「じゃあ”所詮”ディナージャケットだから黒のソフトなボウタイでいいよ」

 現代の感覚ではわかり辛い部分ですが、本来ジャケット・ウエストコート・トラウザーズはすべて別々の布で作ったほうがフォーマルです。

 「スーツよりジャケパンの方がフォーマル度では劣るじゃないか」なんて思ってしまいそうです。しかし、ジャケパンはジャケットとトラウザーズの組み合わせ、ネイビーブレイザーとグレーのトラウザーズの組み合わせを例にとって考えてみましょう。ブレイザーはブレイザー、トラウザーズはトラウザーズとして作られたもの。それを我々が勝手に組み合わせているだけなので、カジュアルの度合いが強くなります。

 そう考えるとどうでしょう、「燕尾服やモーニングをバラバラに組み合わせて楽しむ」なんてことは考えられません。燕尾服はジャケット・ウエストコート・トラウザーズをまとめて「燕尾服」となります。揃えて着るためのものなのにわざわざ別々の布で作るなんて手間のかかることをした服、フォーマルの度合いが強くなるように感じませんか?

 脱線してしまいましたが、「”所詮”ディナージャケットなんだから別々の布で作るなんて面倒くさいことはしなくていいよ」ということで現代でいうところのスリーピーススタイルになったのでしょう。

 ジャケットのフロントボタンについてですが、燕尾服・カウズの流れを汲んでいるため、6つボタンのダブルブレスト(ボタンは留めない)からシングルブレストの2つボタンに省略されたようです(このときもボタンは留めない)私たちのよく知るボタンを留めるシングルブレストの1つボタンというスタイルになったのは1893年頃からだそうです。どんどん省略されていくのも”所詮”ディナージャケットという考えが表れていますね。よく「ディナージャケットが1つボタンなのだから1つボタンが最もフォーマルだ!」なんて熱弁を振るってらっしゃる方をお見掛けしますがなんとも表層的で浅はかだなぁ...と失笑を通り越して惻隠の情さえ感じます。

 以上のことからディナージャケットとは

  1. 燕尾服の尻尾を切り落とした「カウズ」が由来
  2. 19世紀の後半に生まれ、変化して形作られていった
  3. 本来は肩肘張ったものではなく、気楽な服だった
  4. 所詮...という考え方のもと、省略され、現在の形に変化していった
  5. エドワード7世が生みの親

 このようにまとめることができます。

 

 もう少し文量を抑えるはずが、ついつい長くなってしまいましたので、スモーキングやタキシードのお話は次回以降に致します。

 御付き合い頂き有難うございました。それではまた次回、お会いしましょう。

 

 追記:中編を更新いたしました。こちらも宜しくお願い致します。

 

kutsuyasan.hatenablog.com